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『おぉ! My 畜産道!!』公式レビュー / 第15回

2015/05/21(木)

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 動物がたくさん登場するので、動物好きな方に特にお勧めしたいのだが、そういう方ほど辛く感じられる場面もあるかもしれない。動物といっても、描かれるのはペットや野生動物ではない。「ピィギャァアァァァアアア!!」とやかましく鳴く豚をはじめ、牛・鶏といった面々――家畜である。本書は、農業高校畜産科の新入生として、「畜産」の世界に足を踏み入れることとなった女子高校生の一年間を描いた強烈な青春エッセイ。今どきの女子高校生が、家畜たちと日々ディープに触れ合い、汗と泥、ときには糞尿にまみれながら、畜産とそれが扱うもの=「命」について学んでいく。そんな唯一無二の青春模様が実に面白い。

 読みどころはやはり、「養豚」「肉牛」「酪農」「特用家畜(豚や牛以外の家畜。主に鶏)」の各部門について学んでいく実習の授業だ。「バァバァ(牛語で『ねぇねぇ』の意)」と声をかける牛とのコミュニケーション、牛の肛門に肩まで腕を突っ込む直腸検査、角を焼き切る除角作業(焼肉のにおいがしたらしい)……等々、牛の実習だけ見ても興味深いトピック・エピソードが盛りだくさん。読む側もともに学び、ともに体験をしていくような感覚が味わえるところが良かった。著者は動物好きな少女ではあるものの、畜産という分野にあらかじめ夢や志を抱いて入学してきたわけではない。しかし、だからこそ、その目線はフレッシュ且つ読者に近く、彼女が受けるさまざまな感銘はどれもリアルに迫ってくる。養豚の実習では、子豚の愛らしさに感動し、蹄の内側には「プニョプニョプ」の肉球があることに驚く。のろまなイメージを抱かれがちな豚だが、その動きは「犬」と呼びたくなるほどに素早く、掃除する生徒たちをからかってみせたりもするという。著者たちは運良く、子豚の誕生の瞬間に立ち会う機会にも恵まれた。躍動感溢れる筆致で生き生きと描かれるこうした実習の様子は、つねに新鮮な驚きと発見に満ちている。

 愉快なエピソードが並ぶ一方で、命の尊厳について考えさせられる重いエピソードもある。なかでも、鶏の解剖の授業は忘れ難いものがあった。自らの手で育てた命を自らの手で奪う行為に著者たちは大いに動揺し、ショックを受ける。「かわいそう」と思うのは至極当然の感情だろう。けれども、人間の命は植物のように水や太陽光といったものばかりで生きられる形をしておらず、生き物の命をもらわないと生きてはいけない。葛藤や罪悪感、恐怖との闘いを経て、やがて著者たちはすべてを「受け止める」という決意をしていく。その時々に感じたものが感受性豊かに素直に綴られた本作は、少女の成長の物語でもある。終盤で著者はこのように語っていた。「ご飯の前には『いただきます』。終わったら『ごちそうさまでした』。この感謝の言葉を、今なら私は心から言える」(p.226)自分たちの命を繋いでくれる、生き物たちの「命」。身を持ってその尊さを学んだ著者の言葉には、心からの敬意と感謝、万感の思いがこもる。

 「命」についての学びの合間には、クラスメイトとの甘酸っぱい恋や友情の物語なども挟まれている。ロマンチックな場面の背後からは、いつも動物たちの鳴き声が聞こえてきそうで、そんなところも楽しい。学びに恋に友情に、キラキラとしたエネルギーに満ちた青春模様。帰りの電車の中では体に染みついた臭いを気にしたりしながらも充実した毎日を過ごし、青春を力いっぱい謳歌する姿には、おのずと胸打たれるものがある。こうした形でも、本作には「命」の輝きが描かれていた。

(written by 中尾)


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