競馬好きが読めばまた違った感想をもつのかもわからないが、競馬場に行ったことも、馬券を買ったこともない私のようなズブの素人には面白い作品だった。競馬はギャンブルではなく投資なのだ、という新しい価値観を示してくれるからだ。飲む・打つ・買うの三拍子そろった男には近づくな――幼少期にさんざん聞かされた母のこの言葉が、価値観の形成に大きな影響を与えた私にとって、酒を飲むことも、ギャンブルをすることも、女遊びをすることも、すべて悪であった。ところがこの作品は、そうした価値観がいかに偏狭なものであるかということに気づかせてくれた。もう一度言おう、酒や女遊びはともかく競馬はれっきとした投資であると。
その意味において、競馬は株式と何ら変わらない。競馬と株式投資の共通点は、情報収集と分析が何より重視される点だ。本書第1章において著者は、競馬に勝つための情報収集の大切さを説いている。騎手、血統、調教師、コース適性、等々、馬の能力以外にも徹底的に情報を集め、様々な観点から検討を加えることで勝つ確率は格段に高まる。初心者はつい、良い馬につぎ込めば勝てると早合点しがちだが、「日本のサラブレッドの質の向上、能力の均衡が図られた近代競馬」においては、馬の能力分析だけでは圧倒的に情報不足なのだ。もちろん情報を集めるといっても、ネット時代なのを良いことに、闇雲に集めても時間の無駄だ。本書では、著者が馬券を買う時に注意している12のポイントが紹介されていて参考になる。
第2章ではコースの解説と攻略法とがイラスト入りで紹介されている。テニスプレイヤーにもクレーコートが得意な選手と、芝のコートが得意な選手とがいるように、馬にも得意なコースと不得意なコースとがあるようだ。だからこそ、北は北海道から南は九州まで、日本の競馬場の特徴と攻略方法を必要かつ十分にまとめた本章は、投資として競馬をやろうとする者に貴重な示唆をもたらしてくれるに違いない。いま、競走馬をテニスプレイヤーにたとえてみたが、さらに言うなら、競馬に投資する我々は、さしずめゴルファーだろう。グリーンの芝目を読めなければパットが決まらない、勝てないのと同じように、コースと競走馬の相性を見極める眼力を持ち合わせていなければ、利益を上げることはできないからだ。ちなみに、競走馬についての知識は第3章で語られるので、続けて読めば競馬投資家としての準備は万端だ。
第4章では、著者の競馬哲学が語られる。とくに「女房子供を泣かす競馬はするな」が印象的だった。著者の奥様は、夫の競馬に理解を示してくれている。理由は言うまでもなく収支差額が黒字だから。つまり、投資として成立しているので、ギャンブルとはみなされていないのだ。だがそれにしても、競馬専門紙を奥様が購入されるというのには驚かされる。数字(お金)の力は偉大だということを痛感せずにはいられない。私の父も著者のように冷静で知略に長けた人であれば、飲む・打つ・買うの三拍子そろった男にはくれぐれも近づくな、と母が口やかましく言うこともなかったのかもしれない。さっそく本書で得た知識を活用すべく、今度の土曜日にでも中山競馬場デビューをかざってみようかしら。
(written by 海老兄弟)
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