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『イベリコ豚の秘密とスペインの生ハム』公式レビュー / 第19回

2015/08/05(水)

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 “食”とは、言うまでもなくわれわれが生きていく上で切っても切れないものである。21世紀の現代、先進国では食材があふれかえり、食に困るということはなくなった。常に飢えに苦しめられていたと思われるような昔の時代と比べると、幸福の時代であると言えるかもしれない。食を楽しむ余裕のある生活へとシフトしたわれわれは、グローバル化に伴いさらにさまざまな食文化に触れることが可能となったのである――。

 今回紹介する『イベリコ豚の秘密とスペインの生ハム』は、タイトルにもあるように、食材としてのイベリコ豚とスペインの生ハムに焦点を当てた一作である。その内容はとても深く、この一冊をしっかりと読み込めば、かなりのスペインの生ハム通になれること請け合いというほど。世界三大生ハムとして取り上げられる著名な一つに、スペインの生ハム「ハモン・セラーノ」がある。ご存じの方も多いだろう。しっとりとしてまろやかなその味わいに、これまで多くの者が舌鼓を打ってきた。一度口にして、次の瞬間には心を奪われることも多いと耳にするこの食材は、スペイン本国においても特別な食べ物なのである。かつてはすべてが「ハモン・セラーノ」、あるいは「ハモン・クラード」と呼ばれていたそうだが、1980年代後半に「ハモン・セラーノ」と、「ハモン・イベリコ」(イベリコ・ハム)に定義付けられた。このあたりは専門的なきらいもあるが、その経緯も本書ではきちんと触れられていて、書き手の誠実さがひしひしと伝わってくる。イベリコ・ハムとは少し離れるところだが、国の単位でくくるのが難しいその他の生ハムについても補足説明がされており、生ハムの歴史というものを学ぶことが可能となっていて実に興味深い。

 さて、サブタイトルまで含めると『イベリコ豚の秘密とスペインの生ハム ─イベリコ豚の成立に関する考察と生ハムとイベリコ豚製品の実践的取り扱い』という長尺のタイトルに偽りなしの本作品では、イベリコ豚の“秘密”が惜しげもなく披露されている。生ハム用に育てられるイベリコ豚の伝統的な飼育法がその一つである。乳飲み子のころから飼育ははじまり、いよいよ太らせる工程となるが、それがセボと呼ばれるものだ。イベリア半島のたくさんのドングリの実がなる木の森・デエサのエコ・システムを利用する方法や、穀物飼料やトウモロコシを与える方法、飼育場の中で集中的に穀物飼料を与えて太らせる方法などがあるという。そして、イベリコ豚にとってキーとなるのは、どうやらドングリにあるようだが、そんなドングリの種類がとても豊富であることにも、思わず一驚を喫するところだ。イベリコ豚の太り方や肉の脂肪酸の組成も変わってくるために、良質の樫の木があるデエサが重要とあった。これらは実感としていささか捉えにくいところだが、とにかく、手間暇かけて育てられたのがこのイベリコ豚であることはよく理解されよう。

 イベリコ・ハムの加工も写真付きで解説がされており、まさにこれ一冊で生ハム作りまでを指南してくれているのだから素晴らしい。第4章では、いよいよ美味しく食するためのカッティング講座となるが、著者はここでも手を抜かず、用具の準備から入手後の保管に関するあれこれを語ってくれている。心構えはもとより、立ち位置などの細かな点も解説されているのは目を瞠るところ。スペインとは異なる日本での保管方法にも気を配っており、スペインの生ハムについて間違いなく体系的に学ぶことができる好著であった。ちなみに、巻末にはさまざまな料理レシピも収録されている。手の込んだものも見受けられるが、どれも美味しそうで魅力的な料理が並んでいる。これらは、ぜひ読者諸氏にも挑戦してもらいたい。

(written by 薮田)


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『イベリコ豚の秘密とスペインの生ハム ─イベリコ豚の成立に関する考察と生ハムとイベリコ豚製品の実践的取り扱い』渡邉直人・著ダウンロードページ

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