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『ママのオッパイ』公式レビュー / 第22回

2015/09/15(火)

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【全国乳がん患者登録調査報告】
 2011年次の症例数は日本乳癌学会の登録分だけで約48,500症例(参加施設数845施設)、全国では年間約6万人が発症すると推計される。日本人女性で一生のうちに乳癌になるのは18人に1人という統計もある。患者のうち約83%の人は家族(母、娘、姉妹、祖母)が乳癌になったことがない。また、28%の人は自覚症状が無いまま検診で発見されている。――日本乳癌学会HPより抜粋


 増え続ける日本人女性の乳がん。しかし女性の死亡原因となるがんを部位別に見ると、大腸や胃などの消化器や肺が上位を占める。つまり乳がんには早期発見・早期治療が可能、且つ有効ということだ。ピンクリボン運動の高まりもこうした知識の浸透に貢献している。
 
 とはいえ実際の治療では乳房の温存・切除・再建などの手術を必要とするケースが多く、患者の心情は複雑だ。「がんの手術が済んだ患者さんは、概して『悪い処を取ってもらった』と晴れやかな顔でおっしゃる。でも乳がんだけは違う。皆さん異口同音に『(乳房を)取られた』と暗い顔で…」。これは知り合いの外科医の言葉だが、乳がんの特質を端的に表しているのではなかろうか。

 本作『ママのオッパイ』は、墨絵本。作者のChieさんが要精密検査となり「乳がん外来」を受診したことがきっかけで生まれたという。待合室にあふれる患者の数に衝撃を受けながら、「もし切除になったら、一緒にお風呂に入っている子どもたちに私はなんて言うのだろう」とChieさんは自分に問い続けた。どう説明すればよいのか、母親にとっては切実な問題だ。子どもを傷つけたり不安がらせたりせず、自分自身も辛くない、そんな説明でなくてはならない。子どもというものは一旦は納得しても、また同じ質問をしてきたりするからだ(同じ答えをもらうことで安心するのだろうか)。「なんでオッパイなくなったの?」子どもには自然な疑問であろうが、そう訊かれる度に動揺していては母親は辛くなるばかりである。

 そこで必死に考えたChieさんは、「リサイクル」を思いつく。「片方だけ天国に送ってあげたの。天国にはママのオッパイを のみたがっている赤ちゃんが いっぱいいるから」。ママの片方のオッパイは失くなったんじゃない、天国まで飛んで行ったんだ。ボクが大好きだったママのオッパイを天国の赤ちゃんたちが飲んでいる、それはオッパイを卒業した子どもとしてはちょっぴり羨ましいけれど、とても誇らしい情景であるに違いない。ボクは大きいんだからオッパイがなくても大丈夫、そう自分に言い聞かせて自立へのファーストステップを踏み出す子どもの命の躍動も、リアルに感じ取ることができる。

 家族の病気については子どもにもありのままを伝えるべきという考え方もあるだろう。だが、母親のがんにショックを受けない子がいるだろうか。事実でありつつ、前向きな気持ちをもてるような説明を用意するのは、親として当然の配慮であるように思う。ここでのママの台詞は、筆舌に尽くし難い喪失の苦しみを希望に換えている。ママのオッパイは今でも立派に役に立っている、それは子どもにとっても母親自身にとっても嬉しく、意味のある名答とは言えまいか。

 時が経ち世を去った母親が、天国で赤ちゃんに両方のお乳を含ませているラストシーンもいい。オッパイはいつも、どこまでも尊い命の源なのである。全ての女性に、ぜひ大切な人と一緒に読んでもらいたい絵本である。

(written by 海洋)


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