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『身近な漢字を楽しむ』公式レビュー / 第26回

2015/12/14(月)

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「テストで間違えた漢字は二十回ずつ書いて覚えなさい」

 小学生の頃、私は漢字を勉強するにあたって担任の先生からこのように教えられた。こうした単純な反復練習は漢字の勉強方法としてよく提唱されるが、二十回全てを“覚えるため”だけに書きつづけるのは意外と難しい。「漢字を二十回書かなくてはならない」という責に駆られ、書いているうちに漢字の反復練習が“漢字を覚えるためのもの”ではなくなっていた、という人も少なくないのではないだろうか。

 本書は、著者がこうした漢字の勉強方法に疑問を持ったことをきっかけとして生まれた。そこでは、誰もが知っている・見たことがある漢字を用いて、その成り立ちの由来や意味を解説するにとどまらず、漢字にまつわる著者自身の雑学までが縦横無尽に語られている。幼い頃から飽くなき探求心を抱き、かじりつくように「漢和辞典」を読んで、漢字を学ぶ面白さに心を躍らせた経験を持つ著者。そんな著者が執筆したからこそ、「面白い!」と感じる漢字の新たな魅力を読者は本書に見出すことができる。何度も繰り返し書いて漢字を一つの“型”として捉え暗記する勉強方法では得られない、漢字の真の面白さがたくさん詰まっている点が最大の特徴だ。

 その中でも特に唸らされるのは、やはり著者自身の雑学である。例えば、「紅」という漢字にまつわるお話。「今ではモミジというが、万葉時代はモミチであり、主に黄葉と書いた。平安時代になるとモミジと濁るようになり、紅葉と書かれるようになった。」(74p)とある。中国皇帝の聖なる色とされ、黄色を好む中国文化をそのまま真似していた奈良時代とは違い、自らの文化を構築せんとする国風化の影響で、女性の台頭も見られた平安時代では華やかに色付く紅が好まれるようになった。このように時代によって好まれる色がこうも異なっているのには、それぞれの時代での文化に対する捉え方や考え方が異なっているからだというのには驚かされた。この他にも、紅葉の見どころ、見頃の時期や著者が勧める絶景スポットの紹介等、「紅」という漢字にまつわる話は様々なジャンルにまたがり、由来や意味という漢字そのものを学ぶ面白さにとどまることがない。一つの漢字から新たな十の知識を学ぶことにつながるように、たくさんの知識を吸収でき、自分の中にある興味・関心がどんどん広がっていく感覚を楽しむことができるのが、本書なのである。

 漢字に限らず「物事を学ぶ」神髄を再認識できること。それがすなわち本書の魅力そのものと言っても差し支えないだろう。学びの本質とは、一つの事を学ぶにしても様々な方面からそれを捉え、一つの事から十も百もの学びを得ること。これを成して初めて学ぶことに「楽しさ」を見出せるのである。作中、著者は幼い頃に自身が学び感じた漢字の面白さを活き活きとした口調で語っている。それゆえ、読者はまるで“生”の講義を受けているような感覚を味わうことができる。そうした著者の活き活きとした楽しさが読者にまで伝染してしまうほど、本書には「学ぶことの楽しさ」が溢れている。漢字の真の面白さ、さらにそれだけでなく、「学ぶことの本質」を教えてくれるこの作品は、勉強から遠く離れてしまった大人にこそ響く一冊といえるのかもしれない。

(written by 葉瑠)


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