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『いとしきカモたち』公式レビュー / 第30回

2016/02/16(火)

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 サーカスで名演をこなす象、ときに人間と見まがう仕草を見せる動物園の猿、身近なところではペットの犬や猫など、その能力の高さが広く知られている動物は多い。では、アヒルやカモはどうだろう? この種にも同様に、いやもしかしたらそれ以上ともいえる知性が備わっていることを、皆様はご存じだろうか。

 本書は、今から約20年前に高知新聞に連載された、アヒルのドナ、カモのレミ、アイガモのカーチャという3羽が主役の物語である。連載時期から相応の時間は経っているものの、その愛らしい姿が目の前に広がるかの如く鮮明に想像出来るのは、そしてまるで3羽が今でも生きているかのように思えてならないのは、“本物の家族”としてアヒルたちと過ごした著者一家の日々が、愛情たっぷりの筆致で描かれているからであろうか。読了した私までもが、この3羽が愛おしく思えてならないほど、すっかり虜になってしまった。

 著者は3羽と暮らすことで、次第にカモ語が話せるようになり、日中の大半を川で過ごすようになり……と俗世間とは少し違った人生を送ることになる。その豊かで珍しい生活の全ては、当時まだ幼かった著者の息子がアヒルのヒナを持ち帰って来たことから始まった。

 まだ肌寒い春先の深夜3時、寿司店を経営する著者が仕事を終え帰宅すると、2階の居間の片隅に見慣れぬ段ボール箱が置かれてあった。覗くと、中にヒナがいる。初めこそ頼りなげに鳴いていたヒナだったが、翌日パン粉を差し出すとまたたく間に自分の体と同量ほども平らげてしまった。その後、著者の心配をよそに日増しに大きくなっていくヒナ。遂に入れられた箱から顔を出すまでに成長したところで著者は「寿命まで飼わされてはたまらない」と理性で判断する。だが落ち着き先を探すもなかなか見つからず、さりとて川へ放すことも出来ず、結局は「飼うしかない」と一緒に暮らすことを決める。この日々巨大化するヒナ改めアヒルが後のドナである。しかし内実としては、著者は引き取り先を探しながらも何だかんだ「飼うことを密かに心に決めていた」というのだから優しき心の持ち主である。そんな素敵な家族に恵まれ、生涯を全うしたドナは、紛れもなく幸せ者だろう。

 雄々しく、驚く程の知性を持ったスター性のあるアヒル・ドナは、著者の目には石原裕次郎のように映ったという。家にやって来て2日目、まだ「ドナ」という名もつけられぬうちから息子さんの顔を覚え、多くの人の中から探し当てたという。この「事件」は著者とその家族をカモ族にのめり込ませる大きなきっかけとなったそうだ。さらには信号を3日も経ずして完璧に覚え、この手の社会学習は後にやって来るレミやカーチャにも伝授され、最終的に3羽の行進はテレビや雑誌を通じ全国区の話題となった。

 こうした3羽が織りなす驚きのエピソードは、野生のカモたちや近所の方々との交流、川での生活、更には交尾の話まで幅広く紹介され、ページを捲る毎に、読者はカモの知られざる生態に感嘆することは間違いない。そしてそのどれもが生き生きと感じられるのは、著者がどんな時でも3羽のことを何よりも大切に思っていたからであろう。

 未知なる存在に目を向け、愛情を持って接する。そうすることで生活が色鮮やかに変化し、知らない世界が広がってゆくかもしれない。そんな素晴らしさを教えてもらえる一作である。

(written by かもかも)


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