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『タバコを吸う うさぎ』公式レビュー / 第34回

2016/05/13(金)

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 8編の物語を収録したこの童話集は、いずれも小学生を主人公に据えていることからすると、読者の対象もちょうどそのくらいの子どもたちを想定しているのだろう。大人になると童話などあまり読まなくなってしまうが、童話と言えば教育的な側面、特に情操教育や道徳教育的な要素があるものが王道といえるだろう。本書にある、父親が亡くなったために親戚の家に預けられた少年が、新たな家族と織りなす感動的なエピソードを綴った『みんなうちの子たい』などは、そうした系列の作品だ。ただ、今回この本で注目したのは、身近なところで不思議な現象が起こる、いうなればファンタジー的な要素を孕んだ一連の作品である。

 例えば、表題作の『タバコを吸う うさぎ』には、本当にタバコを吸ううさぎが登場する。主人公の少女はある日、家の物置の地下で、タバコを吸ったり、酒を飲んだりするうさぎたちと出会う。彼らは、医学研究所から逃げてきたうさぎたちだ。うさぎがタバコを吸う姿は想像するだけでなんだか可笑しいし、酒飲みのうさぎたちが集団で酒屋を襲撃するといったエピソードもなかなか愉快に感じられる。しかし、彼らは生体実験による変異種であり、その中には、人為的に癌にされたうさぎもいて、その残酷さも示唆される。こうした文明批判や、環境・健康問題といった現実的なテーマを孕んでいる点が現代的と感じられるのである。

 小学生の男の子が、未来の世界に紛れこむ『宇宙人』もちょっと怖い。未来の街は整然と整備され、日常生活のあれこれは何でもボタン一つで機械がやってくれるので、体を使うことはほとんどない。主人公は当初、その便利さが気に入るが、次第に違和感を覚えてくる。異臭を放つ汚れた海、太陽が霞んで見える空、未来人たちは体を使わないので手足は退化して頭だけが肥大している。頭がいい子どもだけを選別して生むというシステムは、かつて日本にもあった優生政策を思わせてぞっとさせられる。大量発生したアリに襲われる恐怖を描く『アリの逆襲』は、昔見たパニック映画を思い起こさせる。アリの大量発生の原因は明示はされないが、ここでも自然界のバランスが崩れたことが示唆されるのである。あまり着てもらえない服たちが逃げ出す『おようふくさんの置き手紙』は、一見かわいいファンタジーにも映るが、これも溢れるモノの無駄やモノを大切にしない風潮を諷刺した作品だろう。

 こうしたさまざまな問題が必ずしも前面に出ているわけではないが、文明のいびつな発達や環境問題について、子どもの読者もそれとなく危機感を抱くことになる作品集といえるだろう。本書を読むと、環境教育というのがこれからの童話の重要なテーマのひとつになると思えてくる。

 本書のあとがきを見ても、著者の自然環境保全への意識は高いことが窺える。その上で、著者は読者である子どもたちに科学者になることを勧めている。なるほど、環境問題を考える場合、科学の知見は有用だろう。科学はその使い道により、時に自然環境を損なうこともあるが、本来科学は自然と対立するものではない。サイエンスとはそもそも自然を知るための学問なのであるから。

(written by 岩楯)


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