文芸社のオンライン・ライブラリみんなの本町

文芸社HP

キーワードで作品検索

キーワードを入力
 
作品ジャンルで絞り込む

作品ジャンルから探す

SSL Certificate
『みんなの本町』における情報通信は
COMODOのSSLにより保護されています。

『たそがれ図書館』公式レビュー / 第38回

2016/09/09(金)

headerimg

 あらゆるものがインターネットで購入できるいま、書店に足を運ばずに本を購入する人も少なくないだろう。あるいは、電子書籍で読書をたしなむ人も以前よりは増えたはずだ。ただ、こうした時勢にあっても古本屋巡りを楽しむ人がたしかにいる。筆者もその一人なのだが、おそらく本作の著者もそうではないだろうか。
 オンラインショッピングの利便性や電子書籍の特性を認めないわけではない。それとは別の次元で、古本屋巡りには魅力がある。そのひとつが「出会い」だ。風変わりな店主と出会って面白い話が聞けるかもしれない。書棚を漫然と眺めているうちに、一目惚れするように素敵な一冊と出会うかもしれない。そしてその一冊は、すでに絶版でネット上では取り扱っていないかもしれない。こうした予測不能なめぐり逢いが本作『たそがれ図書館』のテーマになっている。

 主人公の青空貴子は49歳の女性で、大変に優秀な司書として県立図書館の整理部・主任を務めている。そして彼女は最新の図書館システムを学びたくて、別館として新しく建築中の情報センターへの異動を希望していた。ところが3月、彼女に届いた人事異動通知は「県立月並図書館分館事務長に命ずる」であった。この分館こそ、本作のタイトルである「たそがれ図書館」と呼ばれ、「定年間近で役職にもつけない人が最後にたどり着く場所」(p6)なのだった。
 けれども、この異動には館長・佐藤の明確な意図が隠されていた。青空貴子は司書として有能でありながら、以前に見られた明朗快活な人柄が影を潜めて、近年ではぎすぎすした雰囲気を漂わせていた。佐藤は「もう一度、あの頃の彼女に戻ってほしい」(p11)という切実な思いを抱き、「たそがれ図書館」への異動を決めたのだった。

 収蔵スペースの問題などで本館では保管できないものの、「中高年の人が青春の時期に読んだ忘れられないあの本」(p20)など、古くても利用価値のある本を「たそがれ図書館」は保存している。「そんな思い出の一冊と出会わせてあげられるような図書館」(同)であり、「機械に向かうのではなく、人に向かって話のできる図書館」(p21)である。青空貴子はこの「たそがれ図書館」でさまざまな人々とめぐり逢い、彼らの個性的な魅力に惹かれ、貴子の孤独感も癒えてゆく。また、新しい仲間によって貴子自身の人間的、本有的な魅力が発見されてゆく。こうした出会いとコミュニケーションのありようが、本作の最大の読みどころだ。

 人との出会いは、本との出会いに似ている。貴子の新しい仲間の「榊原先生」は、p48においてその事実に関する印象的な言葉を残している。ぜひとも読んで確かめていただきたい。
 本作のすべての登場人物が幸福感で満たされて大団円を迎えるわけではない。悲しい別れもたしかに描かれている。けれども、出会った事実が消えてなくなるわけではない。ありきたりな人生論であるが、ありきたりな体験談としては語れまい。たとえば、目的のない散策のなかで出会ったことに奇跡を信じること。いささかロマンティックな響きかもしれないが、30年以上、童話や小説を書き続けてきた著者にとって未知の読者との出会いは、そのように掛けがえのないものだろう。

(written by 香月)


あなたの作品感想も《みんなの本町》で公開してみませんか?
『たそがれ図書館』有森小枝・著ダウンロードページ

記事カテゴリー 公式レビュー