前後左右、全方位に注意していたといえば嘘になる。先日、自宅ガレージの柱にリアバンパーをぶつけたのだ。「遂にまともに駐車も出来なくなったか……」と自らの運転能力の低下に言葉を失った。バックミラーばかりを気にしていたペーパードライバーの私は、この書籍にもっと早く出会っていれば、車体に深々と出来た傷の修理代を払わずに済んだのだろう。これほどドアミラーから見える景色が、重要だったとは。悔やまれる。著者が提示している「ドライバーが安全運転のために注意配分する割合」は【前後左右 = 4:4:1:1】。私の場合は、【7:1:1:1】といったところだろうか。
本書には、マイカー歴25年にのぼり、長年クルマと関わってきた著者のクルマに対する経験・知識・見識がふんだんに詰め込まれている。豊富な経験を基に記されたクルマに関する情報・エピソードは、「カーケア商品」事情から「ル・マン24時間耐久レース」まで多岐に亘る。
例えば、【要注意のクルマ】。「他県ナンバーのクルマ」はえてして、その土地の地理にうとく、流れに沿って走っているかと思うと、ウインカーと同時に急なハンドル操作を行うこともある。著者はといえば、前方を走行しているのが他県ナンバーであるとわかれば、車間距離をとり対処するのである。
「北海道の交通マナー」について語る章も興味深い。「日本のクルマ社会の中でここ(北海道)だけは異文化が育っているらしいと感じる」という著者。一直線に続く道、ガードレールも中央分離帯もない幅広の車線(冬場には除雪作業の為、車線の脇に雪が積まれる。「堆雪幅」と呼ばれる。)。クルマで走ると、平坦で道路沿いの目安となる建物がないことに、スピード感覚が鈍る。
「他県ナンバーのクルマ」ではないが、私もレンタカーを借り北海道を走ったことがある。心なしか車の流れが速いなぁと感じていたし、車道の幅が広いだけに、本州とは違ったタイミングで合流してくるクルマがあったりで、終始ヒヤヒヤしながら運転していたのを思い出す。私も著者同様、まさに異文化クルマ社会を北の大地で感じ、カルチャーショックを受けたのであった。
クルマを運転していれば、いろいろなドライバーに出会うだろう。進路を邪魔したりあおったりという「狂犬ドライバー」もいれば、楽しいエピソードを提供してくれる「おもしろドライバー」も大勢いる。車内の天井から隙間なくアクセサリーが垂れ下がっている「葡萄園カー」に出会うこともあれば、駐車エリアの争奪戦に出くわす場面もある。著者が紹介する個性的なドライバーたちとその多彩なエピソードを読み進めると、「あるある!いるいる!」と頷いたり、「嘘でしょ!」と驚かされたり、実に忙しい。平明な文章は、それらひとつひとつのシーンをリアルに臨場感豊かに浮かび上がらせてくれるのである。
今やエコカーのみならず自動運転技術搭載車など、クルマ社会・クルマ文化の進化が著しい。そんな時代にあってまさにこの一冊は、クルマ社会を明るく照らすとともに、ひとりのドライバーとして欠かせない自覚・危機意識・行動力を与えてくれることだろう。そして本書を読んだら、ドアミラーを覗きあたりを慎重に確かめることも、ぜひ忘れないでいただきたいと思う。
(written by ふくだ)
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