文芸社のオンライン・ライブラリみんなの本町

文芸社HP

キーワードで作品検索

キーワードを入力
 
作品ジャンルで絞り込む

作品ジャンルから探す

SSL Certificate
『みんなの本町』における情報通信は
COMODOのSSLにより保護されています。

『ホールケーキの憂うつ』公式レビュー / 第3回

2014/11/10(月)

header

 企業や施設がおひとりさま対応により積極的に乗り出すなど、世間は今、第二次おひとりさまブームであるという。たしかに、単独行動への抵抗感や気恥かしさは、ここ数年でぐっと低下したような感があり、ひと昔前では考えられなかった“ひとり専用カラオケ”や“ひとり鍋の専門店”などが次々にオープンしているところを見ると、おひとりさまはもはやブームを越えて定着しつつあると言っても良いかもしれない。

 本作の著者は、そんなおひとりさまに優しい世の中になる以前から、年間パスポートでひとりディスニーを気ままに楽しみ、勢いで購入したマンションを自分好みにしつらえ、TVを見ながらリビングのソファで朝を迎えても誰にも怒られないという自由なシングルライフを満喫してきた――――ように見えるのだが、その本音はこうだ。

 「でも、女一人で生きて行くって、けっこうつらく厳しいものなんだよ…」

 キャリアがあり、持ち家があり、趣味に使えるお金と時間もある。傍から見ると最高の独身生活を送る著者だが、それでもやはりパートナーの不在というのは、年々心に重くのしかかってくるようである。男運にだけ不思議と見放された自分の暮らしを自嘲気味に語る文章は軽妙だが、所々にちりばめられたさみしさの裏返しのような強がりが、心にぽっかり空いた穴の存在と、そこを吹き抜ける風の冷やかさをありありと伝えてくる。ひとりの時間の使い方を熟知している著者は、家族連れの多いフードコートでの食事から海外ひとり旅、ウン千万円の買い物、果ては人生を左右する手術まで、すべて自分で決断し、時に慎重に、時に大胆に事をすすめてきた。エネルギッシュにシングル道を走り続けるその姿は、まさに世間一般がおひとりさまに抱く凛とした女性像そのものだろう。しかしながらその内面は、常に複雑に揺れている。ひとりに慣れてもひとりで生きることには覚悟を持ち切れない、そんな隠れた弱さ、人間らしさが共感の所以である。

 何ものにも縛られない、どこにも属していない自由で気ままな生活を、楽園と取るか、海図を持たずに大海を漂流していると取るかは本人次第だが、本作を読んで理解されるのは、いずれにしても自由を(多少むりやりにでも)肯定する明るさとタフさがなければシングルライフは送れない、ということである。忍びよるさみしさを全力ではねのけるようなパワーと少しひねくれたところがないと、とてもじゃないがおひとりさまは務まらないようだ。時に家族連れや既婚者に悪態(?)をつく著者の天の邪鬼ぶりは、猫を被ったような女性よりもはるかに魅力的だと思うのだが、世の男性たちは一体どこを見ているのか、まったく謎である。

 ところで、『ホールケーキの憂うつ』というのは、まさに言い得て妙なタイトルだ。ホールケーキを「幸福の象徴」と捉え、嬉しそうにそれを持ち歩く会社員に僻みっぽいまなざしを向けて、なんとなく憂うつになるというのは、シングルならではの視座である。いつか著者にも嬉々としてホールケーキをぶらさげる日が来るのだろうか。結びには「幸福の足音を、最近感じている」とあったが、果たして―――。

(written by 内藤)


あなたの作品感想も《みんなの本町》で公開してみませんか?
『ホールケーキの憂うつ』啓未奈・著ダウンロードページ

記事カテゴリー 公式レビュー