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『21世紀一揆』公式レビュー / 第5回

2014/12/09(火)

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 これまでずいぶん小説は読んできたつもりだが、その中に「農業」をテーマにした作品があっただろうか。『アンナ・カレーニナ』の中で、主役の一人、若い地主のリョービンが新しい農業経営を模索するというのがあったけれど、それはこの小説の主題ではない。というわけで、この『21世紀一揆』が、私が初めて読んだ農業小説といえそうだ。

 舞台は2039年の日本、その7月の7日間を描く。今から四半世紀後の日本では、温暖化が進み、高温障害によって作物がやられて農家は従来の農業ができなくなっている。そんな中、北海道だけは、従来は本州が産地の作物も作れるようになり、温暖化の恩恵を受けているという状況だ。そこで、困窮する本州以西の農家の5人の男たちが、同業の仲間の危機を救うべく決起する。北海道恵庭にあるアトラクションファームを視察に来た総理を拘束し、施設の一角を占拠して立て篭もるのである。もっとも、彼らの要求は決して乱暴なものではなくて、総理を拘束する期限を7日と定め、その間に自分たちの現状と要求を掲載したサイトを多くの人に閲覧して欲しいというものである。つまり、自分たちを支持する世論を作ることが目的なのである。

 主人公たちが起こした「一揆」は些か荒唐無稽の感もあるし、事件がさほど凶悪なものでないこともあって、警官隊との対峙もどこかのんびりしたところがある。基本的にエンターテインメント小説といっていいだろう。ただ、そうしたストーリーの中にも農業に関して示唆的な部分が少なからずある。近未来をシミュレートした社会派小説の一面も持つのである。

 例えば、北海道のみ特例として認められた農業参入への規制緩和や、主人公たちの敵役となる食品会社が推し進める新しい農業のスタイルなど、現代の農業において考えさせられる要素といえるだろう。25年後の日本がこの作品のような状況になっているかどうかはわからないが、近年の異常気象をみるとそうした事態への事前の対策は必要に思われてくる。それは個人農家の努力でどうにかなるものではなく、もっと大きなスケールで農業の構造改革を考えなくてはならないことを、本作は示唆している。 しかし、何よりもリアルに感じられたのは、こんな事件でも起こさなくては、農業の実状や農政の問題に、一般国民の目は向かないということだ。

 最近、どこのスーパーに行ってもバターを置いていない。なぜかといえば、牛乳が足りないからだ。そして、なぜ牛乳が足りないかといえば、酪農家が減っているかららしい。円安によって飼料が高騰したにも関わらず、原乳の価格は抑えられ酪農家は経営が立ち行かなくなっているのが現実のようだ。ちなみにこの10年で日本の酪農家の戸数は35パーセントも減少しているという。安価な乳製品が供給されるのはありがたいが、そのせいもあって日本の酪農が駄目になっていくのでは何とも心苦しい。近い将来、国産の乳製品はなくなってしまうのかもしれないと思うと、ちょっと怖くもなる。

 いずれにしても、日本の農業を守るには、農業関係者の努力だけでなく、消費者即ち国民の理解と協力が必要だということだろう。先進国の中でも断トツに低い食料自給率と、世界でも群を抜いて高いフードマイレージを見ても、日本の農業を含めた食品産業の現状は健全とはいえないはずだ。私もこれまでさほど高い関心があったわけではないが、次の国政選挙では各党の農業政策のマニフェストに注目してみたい。この作品を読んで、まず感じたのはそのことだった。

(written by 岩舘)


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