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『リオの蝶殺人事件』公式レビュー / 第7回

2015/01/13(火)

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 連続殺人事件で、素人探偵が活躍する小説である。2時間TVドラマ枠のミステリー・サスペンスではすでにお馴染みのこの設定。警察の捜査が袋小路に陥っているのを尻目に、捜査のイロハも判らない素人探偵が、どういう訳か名推理を働かせて鮮やかに謎を解いて見せ、犯人を追いつめて事件解決に導くというのが、大体の傾向。そこには、無駄な警察内部の確執や、余計な所轄同士の縄張り争いや手柄の取り合いも登場しないので、殺人事件とは言え暗さとは無縁の、むしろコミカルな雰囲気を醸し出すことが多い。何より、素人が捜査のプロである刑事を差し置いて、解決の糸口を探し当てるため、どこか“してやったり”といった胸のすくような爽快感を味わえるのが魅力であろう。御愛嬌で胸をときめかせる恋愛ストーリーが盛り込まれる場合もあり、何とも至れり尽くせり、盛りだくさんの内容であるのも、この手のジャンルの作品の嬉しい傾向である。

 いささか前置きが長くなったが、この『リオの蝶殺人事件』のケースでは、親子競演が実現する。きっかけは、事件関係者の妻が、夫の職場の人間関係の調査をある女性に依頼したことに始まる。その女性が離婚経験者で現在は飲食店勤務の「秋野」。彼女は依頼があると、副業として素行調査を引き受ける。今回の件で、仕事の助手を募集したところすぐに応募してきたのが、大学生の「蜜柑」で、一連の事件の捜査を担当する「夏」刑事の娘という設定である。つまり、蛙の子は蛙というわけだ。こうして、警察の捜査と並行して、即席素人探偵の調査が進んでいく。ただし、この作品の場合は、素人探偵が一方的に活躍する一般的な作品とは違い、素人とプロがお互いの得意分野で力を発揮し、互いに協力して事件解決に至るというパターンである。また、主だって活躍するのは蜜柑だが、名古屋ではちょっとした有名人・占い師の「エミリー」や、シンガポール警察の犯罪捜査担当のジュロン刑事の妹で、大の日本贔屓な「ケイ」も、チョイ役ながらなかなかの存在感を発揮している。前者は、ラストで大芝居を演じて事件解決を導くのに貢献しているし、後者は周囲も一目置く鋭い分析力を披露する。こうした彼らのバックグラウンドがバラエティに富んでいるので、人間ドラマとしての味わいもある。

 以上が、既存の小説と比較しての特徴だが、実はここからがこの作品の真骨頂。事件の発端はシンガポールでの大学教授変死事件だったが、捜査が進行するに従い別の複数の事件との関連性も疑われるようになり、意外な展開を見せる。その際に重要なポイントとなるのが「バタフライ効果」である。①「坪内準教授脅迫事件:広尾派の坪内準教授への嫌がらせは加藤派の戸松準教授が、坪内準教授を大学から追い出すために組織的に仕組んだ」②「広尾教授殺害事件:平田理事長たちが誰かに命じて、大友恵子にシンガポールで広尾教授を殺害させた」③「松本美鈴殺害事件:平田理事長が言いなりになる戸松を利用して殺害させた」④「大友恵子殺害事件:阿波教授と理事長に何らかの利害関係があり、阿波教授は理事長の命令により実行犯の大友を殺害させた」といった、最初はバラバラに過ぎなかった4つの事件が、蜜柑や夏刑事の調査により結びついてゆく様は、まるでパズルのピースが次々にはまっていくような、達成感を味わえる。

 注意して欲しいのは、上記で挙げた4項目の内容は、蜜柑が考え出した途中考察に過ぎないことである。この後に二転三転が用意されているので、真相については是非とも自分の目で確かめて、この作品のユニークな点を直に味わって欲しい。

(written by 西野圭他)


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