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『秋茄子は嫁に食わすな 楽しい ことばのルーツ読み解き辞典』公式レビュー / 第11回

2015/03/17(火)

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 「秋茄子は嫁に食わすな」という諺の意味ぐらい大抵の人は知っている、と思う。本作中にも書かれているように「秋なすはこんなにうまいのだから、にくい嫁に食わすな」というのが一般的に知られている意味。転じて、『「秋なすは身体を冷やすから」とか、あるいは「秋なすは種が少ないので子種がないと困るから、かわいい嫁に食わすな」というような説もある』というのは、初耳ではあるが何となくわかる。しかし、昔は夜行性の鼠を「夜目」=「嫁」と呼んでおり「秋なすび、早酒の粕につきまぜて、棚におくとも嫁に食わすな」という、単に鼠に秋茄子を食わすなと詠んだ鎌倉時代の和歌が曲解され、今使われている意味を持ったというのには驚かされた。

 このように、私達が何気なく使っている日本語のルーツを辿り、その意外な誕生秘話や今日忘れられてしまった意味を解説したのが本作だ。語源の解説と聞いて「今使っている意味さえ知ってれば不自由しないでしょ」などと思った人にこそ、本作を読んでほしい。作品を読み日本語の源流を知ることは、日本の歴史や文化を学ぶことと同義であり、ひいては先人が言葉に込めた想いさえ感じ取ることができるのだ。

 例えば、「桜」といえば、日本を象徴する花として人々に親しまれ、昨今ではやたらとJ-POPの歌詞に使われたりもするが、その由来を知る人はどれだけいるだろう。語源は「咲麗の約という。あるいは木花開耶姫の転」であり、日本書紀や万葉集にも登場するが、「日本人の心」になったのは仁明天皇が外来の梅に代え京都御所紫辰殿の前庭に植えたのがきっかけなのだという。また、日本で最も多く見られるソメヨシノは、明治初年に染井の植木屋が売り出した交雑種が始まりだと解説されている。要するに桜は、古代から連綿と愛されてきたわけではなく、長い歴史の中で、政治や商売を交えた人々の思惑を経て、国を象徴する花という地位を得るに至ったというわけだ。一言に桜といっても、由来を知っていると、花の美しさはいっそう深く胸に染みてくるような気がしないだろうか。

 あるいは、言葉の裏に隠された意外なドラマに胸を突かれることもある。「あこぎ」といえば主に商売人が強欲に稼ぐ様を表わすのに使われるが、その裏には意外にも切ない物語が隠されていると紹介されている。語源となった阿漕ヶ浦という海域は、伊勢神宮へ供える魚を獲るための漁場だったため、殺生禁断とされていた。しかし、平次という漁師が、母親の病の治療代を稼ぐため密漁を繰り返し、捕えられ沈められてしまった。なんとも悲しい話であり、それが義理人情を欠いた商売を批判する言葉として使われているのは皮肉とも感じられる。なお、書籍の情報を補足すると、紹介されている阿漕平次の物語は江戸時代に浄瑠璃や芝居の演目として創作された話で、元となったのは室町末期の謡曲だ。この謡曲では、伊勢を訪れた僧が密漁者の亡霊に頼まれ彼を供養しようと読誦するも、亡霊は救われず業火に焼かれ地獄に落ちる。悲劇的な美談に仕立てられた後世の物語とは異なり、謡曲は密漁の罪を責める内容で、こちらの方が現代に使われている「あこぎ」という言葉のイメージに近いと感じられる。

 作品には、他にも合計187語の語源が紹介されているので、興味を惹かれたなら読んでみてほしい。仮にネタづくりや、単なる暇つぶしと思って読みはじめたとしても、本著が示す日本語の面白さの一端に触れることで、あなたの知的好奇心は知らぬ間に満たされていることだろう。

(written by 持田)


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